はじめに
一時期は、体温を上げる事が健康につながる、体温を1℃上げれば免疫力は30%上がるなど、体温を上げるための温活がブームになりました。
体温が高いといいことばかりって教えてもらったよー
しかし、最近では低体温の人の方が長寿であるという研究結果があって、医療関係者の間でも意見が分かれているようです。
実際、戦後の日本人の平熱は37℃ほどあったようですが、平均寿命は現在よりもはるかに短いですし、江戸時代くらいまで遡っても平均寿命はさらに短くなります。
昔の人の平均寿命が短かった原因は乳幼児死亡率が高かったためでもありますが、現在と比べて粗食でありはるかに健康的な生活をしていたことを考えるとそれだけでは説明できず、平熱が高かったことが平均寿命を押し下げていた可能性があります。
例えば江戸時代のような食生活であれば100歳を超える長寿者が多く存在してもおかしくないと思いますが、せいぜい最長でも80~90歳程度なのです。この辺りに「高体温=短命」説の秘密があるのかもしれません。
仮に低体温が長生きであることが本当だったとしても、やっぱり体が冷えるのは辛いしイヤだなー。
体温は高い方が良いのか低い方が良いのか、考えてみます。
体温の低い動物ほど長生きなのは事実
種 | 体温 | 平均寿命 |
---|---|---|
人間 | 36~37℃ | 80年 |
馬 | 37~38℃ | 30年 |
犬猫 | 38~39℃ | 15年 |
鳥類 | 40~42℃ | 10年 |
確かに体温が低い動物の方が長生きなのです。
体温が高い方が免疫力が上がりますがエネルギー消費が大きいので寿命は短くなるというトレードオフの関係で、これらを総合的に考慮してそれぞれの種の体温が決まってきたのではないかと思います。
昔から人間は飢餓に備えるためにエネルギー消費が少ないというメリットを優先して低体温になってきたのではないでしょうか。
長生き3条件
人間での研究においては、以下の3点を満たす人が長生きであるようです。
以下は2002年、サイエンス誌に掲載されたRoth GSらの論文の内容です。
この他にも、外国には「低体温が長寿や若々しさの第一条件」という研究結果が少なからずあります。
・低インスリン
・高DHEA-S
・低体温
①血液中のインスリン濃度が低い
インスリンは血糖値を下げるための副腎から分泌されるホルモンであり、インスリン濃度が高いということは血糖値が高いということです。
人間は大昔から飢餓との戦いであったため血糖値が低いことに対処するため血糖値を上げる様々なホルモン(成長ホルモン、副腎皮質ホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン、グルカゴン、甲状腺ホルモン・・・)を作り出してきました。
このように血糖値を上げるホルモンは多く存在しますが、血糖値を下げるホルモンはインスリンしかありません。
血糖値が高いと体を老化させる「糖化」を促進し、最悪の場合糖尿病などの生活習慣病になりますので、インスリン濃度が低い人が長生きなのは納得できます。
②血液中のDHEA-S濃度が高い
DHEA-Sは主に副腎皮質から分泌されるホルモンであり、この血中濃度が高いと長寿であることが分かっています。
DHEA-Sは、「デヒドロエピアンドロステロンサルフェート」といいます。
DHEA-Sは 生活習慣病予防やアンチエイジング効果があって「若返りホルモン」と呼ばれたり、男性ホルモンや女性ホルモンの原料になることから「ホルモンの母」とも呼ばれています。
DHEA-Sは加齢やストレスや睡眠不足によって減少し、コレステロールを原料としているためバランスの良い食事も DHEA-Sを増やすために重要です 。
また、生き甲斐をもって前向きに生きるとDHEA-S が多く分泌されることもわかっており「バイタリティホルモン」とも呼ばれます。
未解明な部分も多いのですが、少なくともDHEA-Sとインスリンの血中濃度は逆相関の関係があることが分かっており、インスリン濃度が低い人はDHEA-S濃度が高く、どちらも血糖値を下げることに寄与するのではないかと考えられます。
③体温が低い
体温が低いという事は体内での生体反応による熱生産が少ないということなので、熱を産む化学反応自体が少ないと考えられます。
そのため、その際に発生する活性酸素も少なくなり、これが長寿につながっているのではないかと考えられます。
これらは3つとも揃って初めて長寿要因となりうる点に注意が必要です。
単に低体温なだけで長生きする要因になると考えるのは早計です。
低体温でも、血糖値が高くインスリン濃度が高ければ早死にすることは容易に想像できます。
インスリンもDHEA-Sも副腎で分泌されるホルモンですから、副腎の健康状態が重要であることは間違いありません。
血糖値が高くインスリンが過剰に分泌されると副腎が疲労しDHEA-Sが少なくなりますので、相互に関連していると言えます。
また、長生きした人を調べると低体温であったというだけで、「低体温」であることが長寿の原因であるという因果関係は証明されていないことにも注意が必要です。
①低インスリン → 血糖値を安定化させて「糖化」を防ぐ
②高DHEA-S → 血糖値を安定化させて「糖化」を防ぐ
③低体温 → 活性酸素の発生を抑えて「酸化」を防ぐ
(「老化の原因とアンチエイジング」参照)
というアンチエイジングのメカニズムで長寿につながると考えられます。
そもそも人間の体温はどのように調節されているのか
人間の体内では脳や内臓が働き生命活動を維持していますが、その生体反応の「副産物」として大量の熱が発生しています。
その発熱量はすさまじく、最も熱を生む心臓や肝臓は40℃を軽く超える温度になります。
人間の体内の温度は、生体反応を司る「酵素」が最もよく働く温度37℃程度に調整されるようホメオスタシスが働きます。
しかし平常時でも40℃以上になるような熱が絶えず生み出されており、43℃を超えると生体反応が正常に行われず死に向かっていきますので、その熱をどうにかして逃がしてやらないといけません。
そのため体内で発生した熱を逃がそうと血液を介して熱を末端まで運び、放熱しているのです。
このように体内での消化や代謝等によってできる熱は「副産物」であり、意図的に体温を上げようとしてできた熱ではありません。
つまり体温が高い人、体がポカポカ暖かい人の特徴は、体温を上げようというホメオスタシスの働きではなく、むしろ産熱量が大きすぎるために体温を下げようとするホメオスタシスの働きによるものなのです。
体温が高いことの弊害
上記のように体を守るために、体内で常に生まれてくる熱を逃がす必要があり、この大量の熱を生む生体反応により発生する活性酸素は相当なモノと思われます。
逆に低体温の人は体内での産熱量が絶対的に少ないので、生体反応自体も少なく、活性酸素の発生量も少ないことになります(正確には、低体温の原因は「体内での産熱が少ないこと」だけではありません。「冷え性の3つの原因」を参照してください)。
副産物として望まれず生まれた熱は、同時に多量の活性酸素を生み出し体を酸化させる原因になっていると考えられます。
高体温で寿命が短くなる例
高体温はどのような人に多いかを考えてみると・・・
肥満
皮下脂肪が多いので熱が逃げにくく体温が高くなりますが、寿命は短いのは想像できますね。
これは発生する活性酸素以上に生活習慣病等が原因になっていると思われます。
食べすぎ
たくさん食べると体温は消化吸収や代謝にエネルギーが必要で体温が上がりますが、カロリーの摂取量が多いと寿命が縮むという研究結果は多いです。
運動のしすぎ、筋肉隆々
筋肉を増やすことで成長ホルモンが分泌され若返りを促しますが、活性酸素を生むことも事実なのでメリットとデメリットの間で、過剰な筋トレや運動は寿命を縮めるというのも一面では正しいと思われます。
たしかに運動することの健康効果については賛否両論ありますね。
昔の人
冒頭でも書きましたが、戦後の日本人の平熱は37℃と高かったのですが、平均寿命は50歳程度と現在より極端に短く、これは乳幼児死亡率が高かったことだけでは説明できません。
まさにこの例こそ、本記事の本回答であり、体温が高いことにより活性酸素の発生量が多いことが短命につながっているというメカニズムが当てはまると思われます。
そもそもどうして粗食だった昔の人の体温が高かったの?
昔の人は農作業など体を使う仕事がほとんどで筋肉も発達していたということと、食物繊維の豊富な食事によって腸内細菌が元気だったからですね。肝臓に負担をかける食事をしていないことで内臓が元気に働いて熱を生み出していたことも大きいかもしれませんね。
「低体温は長生きか」の答え
別記事に書いた「低体温(冷え性)の3つの原因」をおさらいしてみましょう。
①体内での産熱が小さい
「内臓の疲弊」
「腸内フローラの乱れ」
「少食」など
②ドロドロ血液や血管の老化による血流悪化
「高血糖」
③寒さに順応できていない
「しっかり寒さに晒されていない」
これらを見てみると、内臓の疲労や腸内フローラの乱れ、高血糖などに起因する低体温は、仮に活性酸素が少なくても健康上問題があるものです。
結局「低体温の人は長生きか」については、低体温の原因次第であり、3条件(低インスリン、高DHEA-S、低体温)が揃っていれば長生きに繋がるというのが答えだと考えられます。
高インスリンになるような糖分の取りすぎや食べすぎが低体温に繋がっているなら長寿に結びつかないと言えますし、少食で体温が低い場合は長寿につながると言えます。
特に高血糖による低体温には要注意です。
肝臓を疲弊させ、血液をドロドロにし、血管を老化させ、糖化による老化も促進されます。
甘いモノの食べすぎによって低体温をもたらす4つのメカニズムをもう一度おさらいしておきましょう。
・消化や代謝の負担が大きいことによる「肝臓の疲労」
・有用な微生物が腸内に住み着くことを阻害する「腸内フローラの乱れ」
・血糖値上昇による「ドロドロ血液」と「血管の老化」
・血糖値上昇による「反応性低血糖」
結局「低体温による長寿効果を享受できる場合」というのは「少食」であること1点に帰着されるのかもしれません。
私も実体験として少食にしてから体が冷えると感じますが、これによって内臓が疲労することもありませんし、高血糖にもなりません。
食べ物を消化吸収したり代謝するための熱が生まれないのだから当然だと思いますが、食べる量が少ないことによって低体温になる場合は長寿につながるというのは確かだと思います
(であるならば、冷え性は必ずしも悪いものではないと言えるかもしれません)。
高体温と発熱の違い
発熱は免疫力を上げるためであることは間違いないでしょう。
しかし平熱が高いことが免疫力を上げるかどうかは意見が分かれています。
体温が1℃上がれば免疫力が30%上がるということがよく言われていますが、全く根拠がない数値です。
そもそも「免疫力」というものを測ることができないのですから。
発熱が高体温の延長線上にあると考えるのではなく、発熱と高体温は全く別物と考える必要があるのかもしれません。
しかし、やはり東洋医学では冷えは万病の元と言われていますので、低体温で免疫力が低下するのは確かだと思います。
仮に高体温で免疫力が上がったとしても感染症にかかるリスクは減りますが活性酸素の発生量が増加するため、それらの効果のトレードオフでどの程度の体温が良いのかということになります。
結局、体温が高いと免疫力が上がって健康に生きられるかもしれませんが、寿命という点では短くなるということなのでしょう。
まとめ
これまでの内容を総合的に考えてみると、体温が高い低いにはそれぞれメリットとデメリットがあって、特に内臓の疲労や高血糖によって低体温になっているようなケースを除き、少食によって低体温になるような、ある意味正当な低体温である場合に限定すれば、以下のようなメリットとデメリットが挙げられると思います。
・エネルギー消費が少ない
(飢餓への対応)
・活性酸素の発生量が少ない→長寿
・運動能力が低い
・頭の働きが鈍い
・免疫力が低い
そして体温が高くても低くても、「血液が綺麗であること」や「血管が若々しいこと」のほうが(体温調節のためにも)はるかに重要ですので、「体温の高低」よりも「頭寒足熱」と「血液の綺麗さ」に着目して健康を作っていきましょう。
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